はじめに

認知症患者数は現在約400人と推定されており、それに伴って、家庭であれ、介護施設であれ、さらに一般病院であれ、BPSDを伴った患者の対応には非常に苦慮している。
そこで当施設では、そのような困っている陽性BPSD患者を少しでも軽くし、本人のQOLの向上と家族及び介護現場の負担を軽減するために当老健施設の認知棟ショートステイ(SS)を使い少量薬物療法を試みBPSDを軽減させ、より多くの利用者がSS可能となるか検討した。これにより認知症まつわる諸問題の解決の一助となりえるか、さらに現在、急性期病院でのBPSD患者の「受け皿」施設としての可能性も検討したので報告する。

BPSDに対する少量薬物療法の施行

萩の里は、一般棟58床、認知棟42床の介護老人保健施設である。
方法としては、まず平成24年4月から平成25年3月までの1年間でBPSDを伴って認知棟SSを利用し、少量薬物療法を受けた患者様を何人まで増やすことが出来るか、各月におけるSS人数の推移とSS滞在日数の推移を調べた。
各月におけるSS入所者数および滞在日数の推移では、H24年4月、5月の初期では少量薬物療法に慣れていないため少なかったが、その後徐々に慣れてきてH25年3月には2.5倍と増えた。
次に陽性BPSDを伴う患者で体力があり、暴力、徘徊を認める患者様は少量薬物療法可能な老健SSを使い、BPSDがないか軽い場合または薬物療法でBPSDを抑えた後は介護系SSを使い分けることができ、認知症ケアの流れを変えられる可能性がでてきた。

少量薬物療法にまつわる諸問題

少量薬物療法施行の最大のメリットは、現場の介護士の精神的・肉体的負担が軽くなり疲弊しない事である。これにより、新しいBPSD患者の受入れも可能になり、回り回って家族の介護疲れ、精神的負担の軽減に大いに役立っている。少量薬物療法のおかげで家族ならびに施設スタッフからも大変助かるとの声を多くいただいている。
薬物療法を導入する際の医師・看護師・介護士の諸問題としては、認知症やBPSDに対する認識不足と対応力の不足が挙げられた。医師に関してはコウノメソッドを勉強してもらい、看護師・介護士に対しては、できるだけ解剖学に沿った理解しやすい勉強会を院内で繰り返し、今までのお世話的なケアから医学的なケアに変わってきている。
BPSDに対する抗精神薬の使用はコウノメソッドに準じて少量投与を基本としている。高度のBPSDを伴った認知症患者への治療の原則としては、副作用がでないように少しずつ増量し至適量を決めていくことである。傾眠・フラつき等の効き過ぎは厳重注意し、スタッフから情報が上がりやすいように、報連相をしっかりすることである。また、病棟業務は日勤、夜勤、休みと交代制の為、情報が正しく伝わらないことがあり、情報を皆で共有するために認知症薬物投与カレンダーを作成した。
治療の原則は薬物治療50%、介護50%で対応する事である。
少量薬物療法を施行し、在宅へ退所した困難事例を2例提示する。1例は暴力、徘徊の著しいピック病の患者で、2例目は意識障害が強く、食事摂取困難となったDLB患者である。

急性期病院でのBPSD患者の「受け皿」施設としての可能性

平成24年4月~平成26年12月までにBPSDに対して少量薬物療法を施行した症例は42例であった。そのうち7例が病院からの紹介であり、4例がFTLD例であった。
急性期病院では、病棟で大声、徘徊、易怒性などのBPSDを認める患者がいると、看護師がつきっきりになり疲れてしまい業務が出来なくなってしまうとの事である。身体的な急性期治療を終えた後は、少量薬物可能な老健へ移せば患者様が流れ、認知症患者治療にとって非常にメリットがあることと思われる。