第25回全国老健大会(岩手)

目的

介護実習に来る学生は、専門学校で介護の基礎を学び、介護士として働くための基礎知識を身につけている。そのため、介護実習をきっかけに就職へと繋げることができれば、施設としても即戦力を獲得できるだけではなく介護業界で問題になっている人材不足の解消になると考えられる。
当施設には、業務内容を詳細に明記した、オリジナルマニュアルが存在する。そのマニュアルを介護実習に活かすことで、内容の充実化を計り、学生がよりよい実習を行えるように取り組んでいる。

実施背景

厚生労働省の見解では、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年に必要な介護職員は237~249万人となっている。現状をそのまま将来に当てはめた現状投影シナリオによる数値では、2025年の介護職員は218~229万人となり、約20万人の人手不足が懸念されている。現在も3~4万人程度の介護職員不足という実態である。平成22年度の介護労働実態調査においても、介護職員の不足感が高まっているという結果が出ている。
また、厚生労働省「職業安定業務統計」と総務省「労働力調査」によると、介護分野の有効求人倍率は、経済情勢の変化や諸政策の効果等により、一時的に低下しているが、平成22年度から上昇傾向にあるとされている。介護分野は失業率が低下すると、有効求人倍率が上昇する傾向にあり、リーマンショック後より失業率が改善された平成24年1月の時点でも、有効求人倍率が1.96もある。
以上の背景を踏まえ、施設での介護実習を充実させることで、就職に繋げ、少しでも人材不足を解消できないだろうかと考えた。

方法

当施設が平成25年度から独自に開始しているオリジナルマニュアルをフロア全職員に配布。このマニュアルには業務内容が詳細に明記されているため、マニュアルをしっかりと頭に入れることにより、全員が業務に関して同じことができ、同じ知識を持っているようにした。全員の業務知識・内容が統一された中で、実習指導者が実習生を任せることができることができる職員を選出する。以前は、実習指導者が実習生を指導していたが、実習生の増加や、職員が業務の合間に実習生を指導していたため、実習生が1人で待ってしまう時間が生じ、それを極力カバーできるようにした。【結果】
平成25年度の介護実習生の内訳は、介護系専門学校からが13名、福祉課がある高校からが8名であった。そのうち平成25年度に卒業した学生は1名であり、その1名は当施設に就職するという結果になった。また、今年度卒業予定からも就職希望の連絡を数名受けている。介護実習にマニュアルを活用して1年目で、実習生から就職希望者が出たことは大きな成果であると考えられる。
オリジナルマニュアルを応用してから日が浅いため、十分な結果はまだ収集できていないが、今後も充実した介護実習を行う努力を継続し、データを収集していきたい。

考察

現在は、業務に関するオリジナルマニュアルを介護実習に活用しているが、そのマニュアルを学生実習用に改良する必要がある。複数の職員の口頭説明だけでは、聞き逃しや解釈の違いを生じてしまう。そのため、「教える人が変わることにより内容まで変わってしまう」実習生にとらえられる可能性がある。改良した実習用マニュアルを簡易的な資料として配布できれば、聞き逃しや解釈の違いをカバーすることができるのではないだろうか。
また、施設の介護方法、学校での介護方法ではどうしても違いが生じてしまうため、施設のやり方がなぜその方法を選んでいるのかという理由や根拠をしっかりと説明しなければならない。その理由や根拠をしっかりと説明できる職員の人材育成が今後の介護実習にしていくためのポイントであると考える。

図1 介護職員の推移と見通し

平成12年度
(2000年度)
平成24年度
(2012年度)
平成27年度
(2015年度)
平成37年度
(2025年度)
(推計値)
介護職員 55万人 149万人 167~176万人 237~249万人
(218~229万人)

図2 職種ごとの従業員の過不足状況

①大いに不足 ②不足 ③やや不足 ④適当 ⑤過剰 不足感
①+②+③
全体 3.2 15.3 31.8 48.8 0.9 50.3
介護職員 2.2 10.4 27.8 56.7 2.9 40.4
訪問介護員 9.5 24.5 31.9 33.1 1.0 65.9
サービス提供
責任者
2.2 6.3 11.4 79.0 1.2 19.9
看護職員 5.5 11.5 22.0 59.1 1.8 39.0
生活相談員 1.1 3.0 10.0 85.5 0.5 14.1
PT・OT・ST 2.6 7.0 19.1 69.0 2.3 28.7
介護支援専門員 1.1 4.2 12.4 80.5 1.8 17.7

【出典】(財)介護労働安定センター「平成22年度 介護労働実態調査」