日本デイケア大会 第19回年次大会 東京大会
回想法を通しての他者との交流

目的

デイケアの利用者様は外出の機会も少なく、他者との交流の機会も限られている。
そこで、回想法を用いて他者との交流の機会を設けた。回想法とは、昔の写真や思い出を頼りに記憶を刺激し、脳機能活性につなげる治療法である。今回は、回想法を継続実施することで、他者との交流を促し、その結果として認知症の予防・抑制に効果があるかを検証した。

研究方法

デイケアに通う利用者様に対して長谷川式簡易知能評価スケールをおこない、点数が20点前後の方を対象とした。期間は平成26年4月~6月として、対象者には絵画や写真を見せて質問し、当時の記憶や思い出を自由に発言してもらった。各グループの人数は4人構成として、週1回、30分程度を2グループに分けておこなった。3ヶ月後、長谷川式やMMSE、動物思い出し法をおこない、点数を比較した。

結果および考察

実施前と3か月後の対象者の長谷川式の点数を比較すると極端な変化はみられず、短期間での認知症の予防・抑制には至らなかった。しかし、終了後の個別アンケートによると回想法で昔の生活や出来事を思い出すことは、<楽しい>、<懐かしい>、<気分が良くなる>など、全員から非常に前向きな感想を聞くことができた。また、心に残った絵画や写真を尋ねると、「農家の食卓」や、「行商の様子」といった、生活に密着したシーンを選ぶ方が多かった。これは今回の対象者が女性のみであったことに起因していると思われる。そして、利用者様が印象に残ったと選ぶ絵画や写真の中には、卓袱台(ちゃぶだい)や藁綯い(わらない)など、現在の生活からは無くなっている道具や習慣があり、そうした懐かしいものを見つけたときには、表情にも変化があり、利用者様同士の会話もいつも以上に弾んでいた。さらに、スタッフが道具の使い方などを尋ねると、身振り手振りを交えて、丁寧に説明してくれる姿が印象的であった。

開始直後は各々が感想を述べるだけであったが、実施回数を重ねると思い出を語るだけでなく、他者の話をしっかりと聞き、その感想を述べるなど、利用者間の交流も活発になった。当初、消極的だった利用者様から「回想法がある日は、いつもより早起きする」、「写真を見て話したことを、自宅に帰って家族に話すようになった」など嬉しい感想も聞かれた。今回は短期間での認知症予防・抑制には至らなかったが、利用者様の交流の機会を設ける目的は十分に達成できた。