平成28年度 第27回全国老人保健施設大会 大阪

タイトル:当施設による3年間の緊急時治療の検討
筆頭演者:医療法人社団 秀慈会 萩の里 大平政人
共同演者:萩原秀男

 

はじめに

近年、老健に求められる役割は様々にわたっており疾病の合併も多く、対応に苦慮することも多い。今回、我々は日常取扱う症例の中で、緊急時治療方理を要した133名、213件について分析したので検討を含め報告する。

 

対象及び方法

H25年4月よりH28年3月までの3年間に我々に入所した133名(延べ158名)のうち213件の緊急時治療を要した。その他骨折で搬送となった骨折9例は除外した。年度別に見ると、H25年度は(1)急性呼吸不全42件、(2)急性心不全9件、(3)意識障害12件、(4)ショック9件、(5)重度の代謝障害4件であった(経管栄養率38%)。また、所定疾患は58件で、うち肺炎が16件、他は尿路感染(以下UTI)であった。H26年度は(1)25件、(2)20件、(3)15件、(4)6件、(5)8件(経管栄養率18%)。また、所定疾患は肺炎6件でUTI47件であった。H27年度は63件で(1)40件、(2)8件、(3)11件、(4)3件、(5)16件(経管栄養率19%)。また、所定疾患は肺炎15件でUTI45件であった。

 

結果

3年間で経験した緊急時疾患の内訳は呼吸不全117件、心不全37件、意識障害38件、ショック、重度の代謝障害13件であり、これらが、老健法で定められている対象で治療対象となった。この内、緊急搬送されたのは、H25年18%、H26年18%、H27年21%であり、約2割が搬送となり、残りの8割は当施設で治療を行い、改善が見られた。また、これ以外に大腿骨骨折をした9件は当施設で処置困難であり全て搬送となった。

緊急時治療で最も多いのが呼吸不全であり、経管栄養を行っているケースが1年のうちでも数回繰り返すものが多く見られた。経管グループと経口可のグループを比較すると、H25、H26、H27年においても呼吸不全が有意に高かった。

診断には緊急時検査として簡易検査(血算、CRP)を行い、SpO2を測定し、必要に応じて胸部X-Pを撮影する。旦し、肺炎は、肺理学所見とSpO2さらに簡易検査のみで診断し、治療を行うものもあった。治療は3日間行い、そこで治療効果を判断し、肺炎として治療を行ったものは35%であった。

心不全の治療も原則的に点滴を行い、ラシックスを用いた利尿剤にて治療を行い、尿量チェックを行う。SpO2が90%以下になればO2投与を行い、同様に3日間で判定する。適切に行えば、多くは改善できる。

 

 

考察

近年、老健で求められるニーズは高くなっており、その内容も多岐にわたっている。我々の施設でも緊急時治療を行う一方で看取り、BPSDに対する少量薬物療法も行っている。経管栄養を行っているケースでも家族は我々の施設でできる範囲内での治療を希望していることが多い。実際、呼吸不全、心不全にしろ早期に診断し治療を行えば良い結果をもたらすことが多かった。老健によって諸事情が異なると思うが、我々はこれらの疾患に対してもできる範囲で治療を行うことを原則として対応している。そして改善すれば、「わざわざ病院へ搬送しなくて良かった」と感謝をされることが多いのも事実である。

老健施設は今後、包括的ケアを含め進んでいく必要がある。真に地域に根差した施設であるために、我々ができる範囲で医療・介護を行っていく必要があると考える。

 

まとめ

最近、3年間で行った緊急時治療を行った133名、213件について検討した。

1.その半数は呼吸不全であり、早期に診断処置することがポイントと思われた。

2.診断には緊急時検査(血算、CRP)、胸部X-Pなどが役立った。週末或いは夜間、NSからの報告と簡易検査(SpO2、血算、CRP)のみで判断処置することもあった。

3.呼吸不全、心不全共に3日間を治療の目安とし、状況によっては緊急搬送も考えることが重要である。

4.経管栄養となっている群は易感染性であり、経口群と比べても有意差がみられた。

5.早期に緊急時処置を行うことにより病院搬送率を減らすことが可能であった。