第26回全国老人保健施設大会(神奈川)
平成27年9月3日~9月4日
タイトル:認知症治療の明るい未来に向けて ~少量薬物療法×在宅復帰強化型老健×感謝より導かれる結果~
演者:田村 浩臣

目的

現代社会において認知症患者は年々増加している。2025年には4人に1人が高齢者となり、その中で700万人が認知症になるだろうと統計が出ている。今後の日本を支える為には、地域包括ケアシステムの中核施設となりうる老健の対応が重要になると考える。今回の法改正でも認知症に関する対応が求められている。当施設は認知症患者に対し、少量薬物療法と場としての在宅復帰強化型老健と患者家族からの感謝の言葉をかけ合わせた方程式から、現在認知症にまつわる諸問題を解決する方法を見出したので報告する。

方法

方程式で得られた事を分析して、以前の現場と今の現場の違いを比較する。またオレンジプランを一つ一つ実行して、今後老健がいかに重要になるかを検討する。

結果

少量薬物療法において
私たちは認知症に対する知識を向上させる為に、独自の教科書にて勉強会を行ってきた。認知症を詳しく知る事により、BPSDに対する対応が見えてきた。少量薬物療法は一つの方法であり、残りは現場の各職種が協力していかなくてはいけない。薬物50%・現場の力50%が中心であり、この基盤が多くのメリットを生んできた。大事な事はパーセントが対称であること。現場の力だけではBPSDを消失させることは非常に困難である。そこで少量薬物量法が確実に必要となってくる。少量薬物療法の効果はBPSDを抑えるだけでなく、家族のモチベーションの向上に繋がる。今までの強いBPSDが軽減したことにより、介護を行いやすくなっているので、家族から精神的・身体的ストレスが大幅に軽減したと喜びの声が上がっている。

在宅復帰強化型老健において
家族は施設に入所させる際、不安な気持ちと悲しい気持ちしかない。本当は家で看たいという方がほとんどである。しかし強いBPSDがある為、在宅でみるのは大変という気持ちを抱いており、日々自分たちの矛盾に葛藤をしていた。その気持ちを尊重し、三か月後にはBPSDを軽減させ在宅に帰れる様尽くしてきた。私たちが働く、老健と言う場は他職種が居る為、BPSDを色々な方向からみる事が出来る。ここで重要になる事は老健と言う場は家族にとって安心をもたらす所というイメージの構築である。どんなにきれいな建物でも従業員の人数が多い施設でも、場が輝いていなければ見た目落ちしてしまう。在宅復帰に繋がる大きな要因はその施設のクオリティであり、場の雰囲気や職員の気持ちに大きく左右されてくる。家族は見た目で施設を選んで来ているのではなく、場を第一に考えて来ている。その場と言うのが在宅復帰強化型老健であり今後一番重要になる。医師・看護師・介護士・リハビリ・ケアマネ・全てがそこにいるからこそ、在宅復帰させる事が出来、家族が安心しリピーターになる。つまり家族に笑顔が増え、病棟のイメージが明るくなる。これが出来るのは老健という場だからである。

感謝において
感謝は私たちのエネルギーである。感謝をされる事で人間の脳細胞の中のスピンドルニューロンが効果を発揮する。この細胞は他から感謝されることで、自身をプラス思考にさせる。つまり次への新たなステップをする際の背中を押す役目と同じである。感謝をする事で他に幸せを分け、感謝をされる事で自身に幸せを得る。つまり感謝とは人を不幸にさせるような要素は一つもなく、喜びを与える。雲の上はいつも青空と同じで、感謝により心の曇りは消え、眩しい笑顔に変わる。感謝の効果は無限にあるように感じる。感謝とは、たった一言の言葉だが、この言葉ほど愛のある言葉は存在しない。

以上の事から、老健は少量薬物療法を行うにおいて最適な施設であると同時に、在宅強化型老健は他職種が連携する事により、安心した在宅生活の場を作る事が出来る。さらに感謝をして頂く事。これらにより、思い掛けない効果がいくつも出た。
1 職員全体が認知症についての医学的知識が増えスキルアップした。
2 二年前から認知症棟でバーンアウトによる退職者が出ていない。
3 家族の訪問が増え、認知症棟のイメージが変わり明るくなった。
4 少量薬物療法で患者のADLとQOLが上がった。
5 患者・家族・職員から笑顔が溢れた。

考察

新オレンジプランが発表され、日本にとって認知症への対応が迫られている。今後の最も切迫した7つの柱すべてに対応可能な施設は老健である。在宅強化型老健により、家族や地域社会との距離が縮まり、認知症の理解を深められる取組を行える。また、急性期などでは難しい認知症患者への対応も、老健では医療介護職によって問題なく適切なサービス提供を行える。在宅復帰時に家族への退所後医学介護指導を行う事で在宅生活を支え、緊急時の入所などの支援を行える。また、このような学会発表により認知症に対応できる老健が少しでも増えれば、認知症患者や家族が思い悩むことなく、安心して過ごせる地域社会を構築できる。新オレンジプランに描かれている内容がすべて対応できるのはこの方程式である。